廊下にもれてくるうめき声
蒸し暑い夏の丑三つ時
暗闇にそびえ立つ冷たい研究棟の7階
永遠に続きそうな実験の合間にトイレに立つと
ずっと先の教授室から何やらうめき声が
権力を乱用してやらしいことしてるようなら
魚の腐った匂いのする試薬をドアの隙間から噴射してさし上げようと思い
じっとドアの前に聞き耳をたてます
中年男性の声、声色から少し痩せ型背は小さめ
音圧のピークは立った私のへそのあたりにあり、そこから斜め上に出ています
硬くて薄い反射の後ドアに吸収される音のようですから
恐らく背もたれのある椅子に伸びて、窓の外を見ながら歌ってる様子
時折聞こえる日本語のフレーズ
音域と歌いまわしから、日本のベテラン歌手の歌のようです
周囲の静寂を無視したような声量、追いかけるような歌い方から
恐らくヘッドホンで歌を聞きながら一緒に歌っているのでしょう
私はそっと試薬の蓋をしめなおし
尿をたれながらため息をつきました
あー やっぱ音楽はみんなのもんや 音楽ってすばらしい!
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